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東京高等裁判所 昭和34年(ラ)68号 決定

三和銀行

事実

抗告人株式会社三和銀行は本件仮差押事件の第三債務者として指定され、昭和三十四年二月九日仮差押決定正本の送達を受けたのであるが、右決定中の仮りに差し押えるべき債権の表示として記載されたものは、債務者石川石の抗告人に対する預金債権については何等ふれるところなく、右石川石の三井銀行日比谷支店に対する預金債権のみの記載があつたので、果して抗告人に対しては支払の差止めがあつたものかどうか、又、如何なる預金についての支払差止があつたのか知る由がなかつたので、その後預金者たる石川石の払い戻し請求があつたとき同人に預金の支払をなした。ところが、裁判所は同月十日、初めの決定と全く別個の債権を表示した更正決定をして来たが、右更正決定は、内容的に実質的に前の決定とは異なるものであり、送達された仮差押決定の上では書損、違算、その他これに類する明白なる誤謬ということはできないと思われる。よつて右更正決定は許されないものであるから、右更正決定の取消を求める、と主張して本件抗告を申し立てた。

理由

按ずるに、債務者が有する銀行預金債権の仮差押事件においては、第三債務者たる銀行が甲であるか乙であるかによつて仮差押の対象となる預金債権の同一性に差異を生ずることが明白であるから、仮差押決定における被仮差押債権の第三債務者の表示をみだりに更正することの許されないことは多言を要しないところであるが、これを本件の場合についてみると、本件仮差押決定の当事者の表示には「第三債務者大阪市東区伏見町四丁目株式会社三和銀行代表取締役渡辺忠雄、(送達場所)東京都中央区八重洲壱丁目株式会社三和銀行日本橋支店」と明示されているにかかわらず、その被仮差押債権目録には「一金弐百万円、但し債務者石川石が第三債務者株式会社三井銀行日比谷支店に対して有する当座預金、普通預金並びに定期預金の各預金債権の内」と記載されていることが認められるから、両者を彼此対照すれば右被仮差押債権目録における第三債務者株式会社三井銀行日比谷支店という表示は、株式会社三和銀行日本橋支店の誤記であることが一見して明瞭である。かように一見して誤記であることが明白な場合においては、たとえ第三債務者の名称でもこれを更正するに妨げないものと解するのを相当とするから、これを更正した原決定には何ら違法の点は存しない。

よつて本件抗告は理由がないとしてこれを棄却した。

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